●ビネーと精神測定運動
知能テストと数量化
人間の精神的な能力や特性を数量的に示すことができるという考えのもとに、さまざまな測定方法が考案された。その先駆けとなったのは、フランスでアルフレッド・ビネーが1905年に考案した知能テストである。ビネーはテストの問題をやさしいものから難しいものへと配列し、それらの問題のどこまでできたかを年齢に換算して、それを精神年齢として表した(1908年)。
このような考え方によって、人間の精神的な資質は数量化できると考えられるようになり、知能に限らず、性格や適性、職業興味や価値観といった多くの測るものが測定されるようになった。各種検査の資料に基づいてカウンセリングを行うためには、クライエントの精神機能や心理状態を客観的に示す資料が必要である。パーソンズの時代にはまだこのような測定の道具は十分開発されていなかった。しかしその後、知能であろうと性格であろうと、不安状態であろうと精神病的状態であろうと、それらを測定するための道具が多数開発され、必要に応じて使われるようになった。
客観的資料の活用
カウンセリングにおいて、精神測定を行うかどうかは、カウンセラーの考え方によって大きく異なる。例えば、行動主義の立場に立って行動療法や認知行動的カウンセリングを行っている人たちは、クライエントの心理的状態を示す際に客観的資料を重視する。測定や数量化はいわば必須のものであっている。進路相談においても一般に客観的資料はかなり重視される。
一方、カウンセリングにおいて、もっぱらクライエントとの関係性を重視し、クライエントの主観の世界を理解する人たちは、あまり客観的資料を用いることはしない。それは、クライエントの主観の世界を理解することを重要であると考えるからである。