カウンセリングを学ぶとき、私たちはまず「相手を理解する」ことに意識を向けがちです。
けれども、クライアントを理解するためには、まず自分自身を理解していることが大切です。
そのための第一歩が、「自分自身の基準を知る」ということです。
私たちは普段、自分の“ものさし”を無意識に使いながら生きています。
それは経験、価値観、信念、育った環境などによってつくられたもので、
他人をどう感じるか、何を正しいとするか――そのすべてに影響を与えています。
■ 「自分の基準」とは何か？
自分の基準とは、物事を判断したり感じたりするときの“心のルール”のようなものです。
たとえば、
「努力は報われるべきだ」 「人に迷惑をかけてはいけない」 「優しい人でいたい」 といった思いは、一見すると立派な価値観に見えます。
しかし、その基準が強すぎると、無意識のうちに自分や他人を苦しめることもあります。
「もっと頑張らなきゃ」「あの人は努力が足りない」――
こうした思考は、実は自分の中の基準が“絶対”になってしまっているサインです。
■ カウンセリングで大切なのは「自分の基準を緩める」こと
カウンセリングの場では、クライアントの感じ方や価値観がすべての中心です。
それなのに、自分の中の基準が強いままだと、相手の話を「自分の基準で」解釈してしまいます。
たとえば、
クライアントが「仕事を辞めたい」と言ったときに、
“仕事は続けるべきだ”という自分の基準があると、
「もう少し頑張ってみたら？」という言葉が自然に出てしまいます。
けれど、その瞬間、クライアントの心の声は届かなくなってしまう。
だからこそ、カウンセラーには自分の基準に気づき、それを一度脇に置く力が求められます。
■ 自分の基準を知る3つのステップ
① 感情を手がかりにする
誰かの言動にイライラしたり、モヤモヤしたとき、
その奥には「自分の基準に触れたサイン」があります。
「なぜこの言葉に反応したんだろう？」と自分に問いかけてみましょう。
② 「〜べき」「〜ねばならない」に注目する
「○○するべき」「○○であるべき」と感じるとき、
その思考の中にあなたのルールがあります。
それを「そうでなければならない」と決めているのは、自分自身かもしれません。
③ 「例外を許せるか」を感じてみる
誰かが自分の基準と違う行動をしても、
「それもその人の選択だな」と思えるなら、心は柔軟になっています。
反対に、強く否定したくなるときは、自分の基準が“固定化”している状態です。
■ 「正しさ」よりも「理解」を選ぶ
カウンセリングの目的は、正しさを教えることではなく、相手を理解することです。
自分の中の“正しい基準”を少し手放すと、
相手の価値観や感情が、まるで新しい世界のように見えてきます。
「そう感じる人もいるんだな」
「この人にとってはそれが大切なんだな」
そう思えるようになるとき、あなたの中に“共感の土台”が育ちます。
それは、相手を変えようとする力ではなく、
相手と共に在る力です。
■ おわりに ― 自分を知ることが他者理解につながる
「自分自身の基準を知る」というのは、
決して自分を責めたり、価値観を否定することではありません。
むしろ、それを理解し、優しく見つめることで、
他者への理解がより深く、広がっていくのです。
カウンセリングの基本は、相手を尊重すること。
そのためには、まず自分の心のしくみを知り、
どんな“ものさし”で世界を見ているのかに気づくこと。
自分を知ることが、他者を癒す第一歩です。
それが、カウンセリング（ベーシック）における
「コミュニケーションの本質」でもあるのです。
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